2018年の冬、ポルトガルのリスボンを訪れた。
常々、ユーラシア大陸西端の国を見てみたいと思っていたのだ。
仕事をギリギリに切り上げ、
荷物をまとめて飛行機に乗り込んだ。
大阪、ヘルシンキを経由し、
リスボンに着いたのは、二日後の午後。
降り立つと、
肌寒い雨が降っていた。

しかし次の日、外に出てみると、
その陽射しの明るさに驚いた。
眩しい。
あたり一面が白い。

それもそのはず、
建物の多くが、白っぽい色に統一されているのだ。
まっすぐに降り注ぐ陽の光を
そこかしこの壁が一心に照り返している。

日差しに目を細めながら、
ぶらぶらと歩き始める。


建ち並ぶ建物は どれもかなり使い込まれているが、
よくみると、細部に 可愛らしいデザインが施されていることに気付く。

何気なく使われているタイルは どれもユニークで、
思わず立ち止まり、見入ってしまう。


ショーウィンドウを覗き込んでも、魅力的な物ばかり。


丁寧に並べられた本たちを見ると、
ポルトガル語は読めないのに、手に取ってみたくなる。
右へ左へと しばらく歩いていくと、
大きなアーチが見えてきた。

そこをくぐると…

コメルシオ広場だ。

なんて広いんだ。
立っている自分があまりに小さく
心許なくなるほどだ。
コメルシオ広場は、
日本語で言うと 貿易広場。
ここから たくさんの船が旅立って行ったのか。
振り返ると、
こちらも大きく立派な建物。
最高裁判所と政府機関が入っているとのこと。
色合いがポップで可愛らしい。

その前を、ガタゴトと走ってゆくトラム。

シンメトリーなアーチは、回廊に端正な影を落としている。
一見 無機質に見えるものと、
その中を行き来し、商売をする人々との対比が面白い。



21世紀の人々の姿に、
遥か昔の大航海時代を重ねる。
当時もこんな風に、
たくさんの人が行き交っていたのだろうか。

安宿に泊まっていたので、
コインランドリーに行く道すがら、
住宅街の中を散策する機会もあった。

観光エリアとはまた違い 少し雑然とした雰囲気もあるが、
その生活感が また良い。


道端に並べられた果物や野菜が、
なんとも美味しそうだ。

ここで暮らしたら…などと想像してみる。
うーん、どうだろう。
うまく行くかな。
でも案外、好きになるような気がする。
宿の受付の人の、
はにかんだ笑顔と 落ち着いた物腰を思い出し、
そんなことを考えたりしていた。

旅の後半、
雨に降られる日もあった。
どんよりと雲が立ち込めると、
途端に寒くなる。
緯度が低いとはいえ、
やはり冬である。
ようやく雨が上がった頃、
テージョ川沿いを散歩した。

あまりに大きいので てっきり海かと思っていたが、
地図を見て驚いた。
なんてスケール。
うちの近所の川とは大違いだ。

川沿いの道を見ると、たくさんの人々。
週末の夕方、
これから夕飯を食べに繰り出すのだろうか。

打ち寄せる波が、夕陽を映す。

見上げると、
雲の合間から夕陽が差し込んでいた。
遠くにはヨットが一隻。

静かな川だ。
なんとなく、
この街の雰囲気を反映しているような気がした。
静かで 穏やかで、
それでいて、
根底に流れる、揺るがないアイデンティティ。

長い歴史の中で、
次々と起こる混沌の中で、
人々が育んできたもの。


それはきっと、これからも。

ユーラシア大陸西端の国は
眩しくて、穏やかで、魅力に満ち溢れた国だった。
今頃、どうしているだろう。
いつかまた、その景色に再会したい。
そう心から思う。

(撮影:2018年 ポルトガル・リスボン)