雪がめちゃくちゃに降り積もった。
しかも、ほんの一昼夜の間に、である。
一昨日までは晩秋の装いだったのに、
今朝起きると、一面が真っ白。
カーテンを開け、その白さに小さく歓声を上げた。
そして、「大変だ、冬になった」と急に沸き立ち、
カメラを掴んで庭に出た。
久しぶりに吸い込む、雪の匂い。
ピンとはりつめたように冷えた空気が、頬に気持ちいい。
積もったばかりの庭の雪は、息を呑むほどにふわっと軽やかだ。
思わずひととき無心にシャッターを切った。
雪の匂いが好きだ。
芯まで冷え込んだ、でもどこかに温かみのあるような、そんな匂い。
本当は雪の匂いなどないのかもしれない。
しかし冬になるとよく、「あっ、雪の匂い」と手を止める瞬間があるのだ。
その一瞬が、たまらなく好きなのである。
雪の匂いは、たとえ外にいなくとも感じるのだから、面白い。
例えば夜中、寝ぼけて廊下に出た時。
もしくは朝目覚めて、カーテンを開ける瞬間。
暖房の温もりが届かない家の隅や、カーテンと窓の隙間に、
その“匂い”は潜んでいるのだ。
一体何が、雪の匂いの“もと”になっているのだろう。
冷えた空気の、温度や湿度だろうか。
もしくは草木を雪が覆い隠して初めて顕在化する、空気の匂いか。
はたまたそれは、単に歳の数だけ凝縮された冬の記憶と相まって、
“匂い”という感覚に集約されているだけなのかもしれない。
どれも思い当たるような気がするし、どれも違うような気もする。
実を言うと、
本当に“雪の匂い”があったらいいな、と思っている。
シベリアから流れくる大きな寒気が、道中で携えてくる様々な匂いの”もと”。
それらが絶妙に調合されて、この雪の匂いを作っているのだとしたら、
最高じゃないか。
シベリア気団からの、
とんでもないスケールの、お土産である。
冬がやってくる。
今年も雪の匂いを胸いっぱいに満たし、
白く静かな季節を味わいたい。