竹原駅で高速バスを降り、地図を確かめた。
町並み保存地区は、徒歩で10分程か。
カメラを取り出しつつ、頭の中で何度か道のりをなぞる。
少し伸びをし、おもむろに歩き始めた。
川が印象的な街だ。
年季の入った建物が多く、
どこか懐かしい雰囲気が漂う。
昔ながらの商店。
道沿いに並ぶ植木鉢。
細部に垣間見える生活感が、心地良い。
しばらく歩くと、
街の色合いが、ぐんと濃くなった。
美しい細工が施された、
瓦屋根の軒が続く。
軒先に置かれた物たちは
今住む人々の生活を伝えるが、
視線を上げると、
瓦と土壁の織りなす世界に
今がいつなのかと、些か混乱する。
一歩お屋敷に立ち入ると、
主人がひょいと顔を出しそうな、
そんな錯覚さえ覚える。
昔なのだけれど、
昔ではない。
今この時も、
過ぎ去ったはずの時間も、
同じ新鮮さで、肌に伝わってくるのだ。
混沌とした頭のままに、
ぶらぶらと歩く。
この気持ちをどう表現しようか。
もどかしく言葉を探す。
心の奥底には、
静かな興奮が湧き立っている。
数百年前も、今も、
生身の人間たちが、まさにここを行き交ってきたのだ。
その事実を、
全身の細胞をもって、実感している。
顔を上げ、息を吸い込む。
冬のひんやりとした空気が、鼻を冷やす。
遠くたなびく煙に、
今この時を思い出した。
(撮影地:広島県竹原市)