フェリーを降りると、
賑わう観光客を横目に、裏路地に入った。
快晴だ。
陽射しが気持ち良い。
道を一本入ると、
あたりは途端に静かになる。
そこにあるのは、日常の時間。
道端に置かれた物の
佇まいに惹かれる。
樹上には、蜜柑。
まさに食べ頃の橙色。
思わず口が動く。
細い路地には、
颯爽と走り去る背中。
しばらく歩いた頃、
不意に、にぎやかな声が耳に届いた。
みやげ屋が並ぶ通りに出たようだ。
遠くには、露店も出ている。
鼻先をくすぐる、
香ばしい匂い。
屋台を眺める、鹿と猫。
長く続く階段は、千畳閣へと。
鮮やかな青空に
息を呑む。
視界に広がる、瓦屋根の街並み。
食事に夢中な、鹿の背中。
千畳閣には、燦々と日が注ぐ。
爽やかな風が通り抜けている。
風の来る方を見遣ると、
そこに広がるのは
海。
対岸の街。
重なり合う山の稜線。
私はその景色に
しばし時を忘れる。
潮の香が、頬を撫でる。
(撮影地:広島県廿日市市宮島町)