小樽駅に到着したのは
10時半も過ぎた頃だった。
駅を出ると
強い日差しに面食らう。
暑い。
今年初の夏日だろうか。
観光客の姿もちらほら。
連休は終わったが
カートを引く人々も歩いている。
目抜き通りを抜け
住宅街へと入っていく。
辺りのざわめきが消える。
高架下では列車の走る音。
日差しは相変わらず強い。
蔦の葉がツヤツヤと
日光を照り返す。
当て所もなく
ぶらぶらと歩く。
しばらく歩を進めると
唐突に
線路が現れた。
旧手宮線跡だ。
旧手宮線とは
道内で産出した石炭を
小樽港まで運ぶために
使用されていた線路である。
現在は線路の一部分が保存され
それに沿って
遊歩道が作られている。
ありふれた公園のような印象を受けるが
よく見ると
レールも枕木も
当時のままに残されている。
ひとつだけ
当時と違うのは
それらに寄り添うように
草花が自生していることだ。
線路も、植物も。
鳥も。人間も。
全く異質なものたちが
当たり前のように 共存しているのだ。
当時 経済の最前線を担っていた線路。
それが今は
穏やかな表情で
生き物たちを受け入れている。
その姿は
少し不思議で
どこか 微笑ましさを感じる。
過ぎ去った時間。
積み重ねてきた時間。
帰り際
現存している「北炭ローダー基礎」を見に
小樽港に立ち寄った。
当時はこの基礎の上に
ベルトコンベアーが備え付けられていた。
まさにここで
列車から船へと
石炭が積み込まれていたのである。
今はもう その跡形はなく
残るのは
岩と見紛う基礎部分のみ。
目前には
静かな海が広がっている。
ほんの数十年前まで
当たり前に目の前にあったはずの風景。
今はそれが
はるか昔のことのようだ。
遠くには
今も働く 港の建物が見えた。
(撮影地:北海道小樽市)